私の視点
東京工業大学教授
(日本建築学会会長) 仙田
公共施設の設計がほとんど設計入札という形で選定されていることは、一般的に知られているだろうか。すなわち、公共施設の設計者を設計料の安さで決める、という制度である。 とくに、公共施設においては、多くの場合、用途と大まかな面積の提示のみで設計料の安さを競わせて、設計者が選定される。本来ならば、デザインや設計技術を競わせて選定されるべきである。選定の方法には技術提案(プロポーザル)、設計競技(コンペ)という方式もあるが、公共建築の設計においてこの方式で決められているのはわずかである。横浜市は、建築の設計入札を行っていない珍しい自治体であるが、公園設計などは、設計入札である。 設計、計画などの知的生産行為を入札によって決めるのは、全くのあやまりである。これは技術的、デザイン的競争を促さない。
設計者選定には設計入札に代わって、技術提案、設計競技、選定委員会による選定など、さまざまな方法が考えられる。設計競技は新しい才能を発見するには有効な方法だが、時間と経費がかかる。選定委員会方式はどちらかというと実績重視になりがちである。 設計入札は、会計法や自治法などの縛りで、物品購入や工事と同じように、最も安易な選定の方法として広く採用されてきた。しかし、設計者はもっと丁寧に時間をかけて選定されるべきである。そのための行政的手続きについては、日本建築学会などが中立的な立場で支援できる。 設計入札は、創造性を発揮させる社会システムではない。長年の悪習としか言えないこの方法で、多くの日本の公共施設のデザイン、都市デザインがなされてきたことは、悲しむべきことである。
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