(NPO)木の建築フォラム(地域メンバー)提案
 Love River Town 愛川,神奈川



朝日新聞 2001年8月24日掲載 (転載=筆者 承認済み 2001/08/28)
Copyright 2001-2002 Asahi Shimbun/ Copyright(C) Senda Mitsuru 2001
視点
 東京工業大学教授 (日本建築学会会長) 仙田せんだみつる

◆入札制度 公共施設設計は技術力で

 公共施設の設計がほとんど設計入札という形で選定されていることは、一般的に知られているだろうか。すなわち、公共施設の設計者を設計料の安さで決める、という制度である。 

 とくに、公共施設においては、多くの場合、用途と大まかな面積の提示のみで設計料の安さを競わせて、設計者が選定される。本来ならば、デザインや設計技術を競わせて選定されるべきである。選定の方法には技術提案(プロポーザル)、設計競技(コンペ)という方式もあるが、公共建築の設計においてこの方式で決められているのはわずかである。横浜市は、建築の設計入札を行っていない珍しい自治体であるが、公園設計などは、設計入札である。

 設計、計画などの知的生産行為を入札によって決めるのは、全くのあやまりである。これは技術的、デザイン的競争を促さない。
 設計入札でも、実際には談合という話し合いで決められているが、しかも、昨今、不景気で談合も不調に終わるケースも多いという。予算の5分の1、10分の1という、信じられない設計料で落札される。
 低い設計料ということは、それだけ丁寧にじっくりと設計できないわけで、結局は極めて粗悪な公共施設ができることになる。それは市民、住民にとって全く利益とならない。
また、このような外国には見られない悪習を続けていては日本のコンサルティング、設計の実務集団は国際的な競争力を持てない。
 設計入札のシステムに慣らされて、日本の建設コンサルタントは、技術競争になじめず、アジアの建設市場において、欧米のコンサルタントに負け続けているといわれている。

 設計者選定には設計入札に代わって、技術提案、設計競技、選定委員会による選定など、さまざまな方法が考えられる。設計競技は新しい才能を発見するには有効な方法だが、時間と経費がかかる。選定委員会方式はどちらかというと実績重視になりがちである。
 筆者は東京都の設計者選定委員会の委員を4年務めたが、よく機能していると思われる。しかし、東京都選定委員会には記念的な施設のみしかかけられない。残念なことに、ほとんどの公共施設は設計入札である。この委員会で選ばれた設計者が設計した高校と、設計入札による高校では、その質に雲泥の差があることを実感した。

 設計入札は、会計法や自治法などの縛りで、物品購入や工事と同じように、最も安易な選定の方法として広く採用されてきた。しかし、設計者はもっと丁寧に時間をかけて選定されるべきである。そのための行政的手続きについては、日本建築学会などが中立的な立場で支援できる。

 設計入札は、創造性を発揮させる社会システムではない。長年の悪習としか言えないこの方法で、多くの日本の公共施設のデザイン、都市デザインがなされてきたことは、悲しむべきことである。
 設計入札という悪弊をやめ、21世紀の日本を活力のある美しい町に変えよう。そしてそれは、同時に、日本の建築事務所や設計コンサルタントが国際的な競争力を持つ道でもある。

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