(NPO)木の建築フォラム(地域メンバー)提案



朝日新聞 2001年9月16日掲載 (転載=筆者承認済み0922)

視点
 博物館明治村建築部長 西尾にしお雅敏まさとし

◆博物館 歴史的建物の英知に学ぼう

 博物館明治村(愛知県犬山市)には60余の建物がある。全国の様々な環境下に作られ、数十年の役目を終えて移築された物ばかりであるが、これだけの個性が集まると強烈なパワーが生まれる。人間で言えば、各界熟年者の総合力である。

 明治村で最大の建物、帝国ホテルが関東大震災のその日、竣工披露を迎えていたことを知る人は多いだろう。しかし、なぜ壊れなかったかについて知る人は少なくなった。一つの理由はその基礎にあった。八重洲という軟弱な地盤の上であるから一面に松のくいを打ち並べ、鉄筋コンクリートの基礎を構築した。海に浮かぶ大型船のように揺れをしのいだのである。

 西郷従道が明治10年過ぎに建てた洋館(重要文化財)も地震への備えがすばらしい。屋根は軽い銅板で、分厚い大壁の足元にれんがを積み込んで土台の浮き上がりを防いでいる。阪神大震災後、同様の措置が叫ばれるようになった。

 また、西園寺公望が隠居後に住まった坐漁荘にも隠れた工夫がある。玄関の靴脱ぎ縁は非常に薄い板が使われているが容易には壊れない。裏側に真ちゅうの補強が埋め込まれているのである。芸術的としか形容のしようがない。ほかにも、25年は大丈夫という和紙張りの天井、木をより美しく見せる木目塗りなど、総じて風土に沿って生まれた工夫が、長い期間の省エネルギーにつながっている。

 建築の中にある工夫は住み手と職人がともに考えたものだからこそ、千差万別な生活形態に沿いうるのである。この工夫が物づくりの源であり、その実態を専門職ならず広く若い人に伝えることが日本を豊かにすることになる。しかし、その多くは教科書などには載りえない知恵であって、実物を介して肉声で伝えるしかない。そのために野外博物館はある。

 私はいま改めて、野外博物館でのインターン(研修)制度といったものを提案したい。日曜大工やペンキ塗りといった家や建築に関心のある老若男女が図化実習、修理実習など、実物に触れながら物づくりの感触をつかみ、物を生かす知恵を学ぶものだ。実物に接しての観察、スケッチ、施工体験こそが、文化継承発展の基本なのである。

Copyright(C) Nishio Masatoshi  2001



 

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