1:神奈川県立生命の星・地球博物館 2:丹沢鳥類研究会
はじめに鳥類の既存の文献とは主として,目本野鳥の会神奈川支部(1992)および竹内(1995)の報告であり,それぞれ記録の末尾に「神奈川支部」,「竹内」と記しでその引用を明らかにした.また,日本野鳥の会神奈川支部の看江馨氏.石江進氏ならびに萩原征雄氏からは貴重な観察記録をご提供いただいた.これらの記録についても,記録末尾に明記し,本調査で得られた記録と区別した.鳥類の科名と学名については叶内他(1998)に準じた. 哺乳類についても,現地調査のほかに,文献調査と聞き取り調査により得られたデータに基づいて目録を作成した. 本調査により.鳥類37科108種,哺乳類10科17種が愛川町に生息することが確認された.なお,鳥類については中村一恵・佐藤誠三,哺乳類については山口住秀がそれぞれ担当・執筆した. 日本野鳥の会神奈川支部には文献引用についてご協力いただいた.同会同支部の石江馨氏,石江進氏ならびに萩原征雄氏には貴重な観察記録をご提供いただいた.大磯町郷土資料館の北水慶一氏には文献入手について便宜をはかっていただいた.愛川町教育委員会の岡本實氏には編集面でご協力いただいた.これらの方々に記して感謝の意を表する. 愛川町の注目すべき島類凡例@「文化財保護法」(文化庁)により天然記念物等に指定されている種. A「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律」に指定されている種. B「自然環境保全調査」1976(環境庁)による[すぐれた自然]に指定されている種. C「第2回自然環境保全基礎調査」1981(環境庁)による指摘種. 稀:稀少種 学:学術上重要な種等 指:指標昆虫 B:分布域が国内若干の区域に限られる種. D「目本の絶滅のおそれのある野生生物・脊惟動物編」1991(環境庁)の記載種. E:絶滅危惧種
a:絶滅種
IからLまでの5ランクのうち,I*ランクは,分布域が希薄で,かつ個体数の少ないと考えられた種であり,それを「希少種」と位置付けた.現在のところ危惧種に該当していないが,生息条件または生息環境の急変によって容易に上位のランクに移行するような脆弱性を有すると考えられた種である. (l)レッドデータブック記載種1989年に環境庁が選定した緊急に保護を要する動植物の種のリスト『レッドデータブック』.1995年に神奈川県が選定した保護を要する動植物の種のリスト『レッドデータ生物調査報告書』によれば,愛川町で記録された鳥類のうちこのリストに関するのは.表lに示す30種である.このうち特に,愛川町においての緊急に保護を要する種について挙げる.(2)猛禽類タカ科のミサゴ,トビ.オオタカ,ツミ,ハイタカの5種,ハヤプサ科のハヤブサ1種と合わせて6種の他,フクロウ科のアオバズク,フクロウの2種が記録され,全体では,8種に達する(表1).厚木市荻野地域(山口,1996b)6種.大磯地域(浜口・中村,1987)の7種に比べて多い.猛禽類の多くは生態系の食物連鎖の頂点に位置するため.種数の多いことは,その地域の生態系の質と多様性が相対的に高いことを示していると考えられる. (3)シギ・チドリ,サギ・カワセミ類シギ科ではイソシギ1種,クイナ科のヒクイナ1種,チドリ科のコチドリ,イカルチドリの2種,サギ科のゴイサギ,アマサギ,チュウサギ,コサギの4種,カワセミ科のヤマセミ,アカショウビンの2種が記録され,全体で10種である(表1). これらの10種類の鳥類は,水辺環境の指標種として重要である.いずれも河州,水田などの水辺環境に好んで生息し,餌の供給や繁殖環境の条件が満たされていることが,水辺環境を好む理由として挙げられる.しかし近年になって生息環境としての河川
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表1.注目すぺき鳥類一覧
→(凡例)
D1991環境庁・編
E:絶滅危惧種 V:危急種 R:希少種 |
E1995神奈川県・編
a:絶滅種 b:危惧種 c:減少種 d:希少種;(健在種) |
No. |
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1 | サギ科 | ゴイサギ |
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2 | アマサギ |
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3 | チュウサギ |
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○ | ○ | ||||||
4 | コサギ |
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○ | ○ | ||||||
5 | タカ科 | ミサゴ |
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○ | ||||||
6 | トピ |
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○ | ○ | ||||||
7 | オオタカ | ○ |
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○ | ○ | |||
8 | ツミ |
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○ | |||||||
9 | ハイタカ |
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○ | ○ | |||||
10 | ハヤプサ科 | ハヤプサ |
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○ | ||||||
11 | キジ科 | ヤマドリ |
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○ | ||||||
12 | クイナ科 | ヒクイナ |
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13 | チドリ科 | コチドリ |
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○ | ||||||
14 | イカルチドリ |
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○ | ○ | ||||||
15 | シギ科 | イソシギ |
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○ | ○ | |||||
16 | フクロウ科 | アオバズク |
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○ | ○ | |||||
17 | フクロウ |
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○ | |||||||
18 | カワセミ科 | ヤマセミ | ○ | ○ | ||||||
19 | アカショウビン |
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○ | |||||||
20 | ヒバリ科 | ヒバリ |
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○ | ||||||
21 | サンショウクイ科 | サンショウクイ |
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○ | ||||||
22 | ウグイス科 | ヤプサメ |
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○ | ○ | |||||
23 | オオヨシキリ |
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○ | |||||||
24 | キクイタダキ |
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○ | |||||||
25 | セッカ |
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○ | |||||||
26 | ヒタキ科 | オオルリ |
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○ | ||||||
27 | コサメビタキ |
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○ | |||||||
28 | カササギヒタキ科 | サンコウチョウ |
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29 | ホオジロ科 | ホオアカ |
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○ | ||||||
30 | アオジ |
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○ | |||||||
計 | 15科 | 30種 | − | 1 | 1 | 1 | 5 | 26 | 19 | 18 |
愛川町の鳥類の特徴調査の目的は鳥類の生息状況を把握することであり,その結果を『愛川町産鳥類・哺乳類目録』として作成した.調査結果に基づき愛川町の鳥類の特徴について述べる. 愛川町を鳥類の生息環境からみると,森林,河川・農耕地,市街地の3つに大きく分けられる.今回記録された108種の鳥類は,生息環境別に森林60種,河川・農耕地27種,市街地22種に分けられる.このうち森林環境に依存して生息している鳥類は60種と,全体の約半分を占めている.60種のうち,アオゲラ,アカゲラ,コゲラ,コルリ,ルリビタキ,トラツグミ,クロツグミ,キクイタダキ,コサメビタキ.キピタキ,センダイムシクイ,サンコウチョウ,シジュウカラ.コガラ,ヒガラ,ヤマガラ,ヒヨドリ等は森林性鳥類である.さらに,河川や水田等の水辺環境に依存して生息しているシギ,クイナ,チドリ,サギ,カワセミ類等10種が記録され.多様な鳥類相が形成されている.中でも猛禽類の種数が多く記録されたことは注目に値する. 青森県の早池峰地域で36科ll2種,千葉県流山市で40科155種,県内では相模原市の37科104種.厚木市荻野の30科72種が報告されている.他地域との比較からわかるように,本町で37科108種が記録され,その中に希少種が多く含まれていることが特徴の一つと言えよう. おわりに |